2013年11月15日金曜日

 着物の常識であり洋服に慣れた現代人に送る、着物の弱点、第二弾。
今回は「着物は急げない」ものであるということをお話します。

大きな袖とロングタイトスカートのような裾を見て分かる通り、着物は動きにくい衣類です。
足を包まれた裾でつまづいたり、裾に周囲のものを引っ掛けてしまうこともしばしば。
特に、移動能力について洋服には大きく劣ります。これはとても重要なことです。

股を開ける範囲が狭いことに加え、着くずれの不安や、そこに雪駄というクラシックな足元が上乗せされると、洋服(+靴)と比較して同じ距離の移動時間は常に数割増しとなります。
そのほか、ちょっと想像しても洋服と比べて速やかに行動できる場面はまず思いつきません。

すなわち、現代で着物生活を行うためには、各所要時間すべてを割り増しておかないと意図せずにルールや待ち合わせなどの約束を守れないという事態に繋がってしまいます。

特に女性の場合、その傾向は顕著です。
移動や動作もそうですが、着付けや準備の時間は男着物の数倍から時に10倍にも及ぶことがあり、一緒に行動する際はそれをしっかり覚悟しておかなければなりません。
帯も長着も男着物に比べてかなり重いので、一緒に歩いている場合、男性が、歩幅・所作・荷物などを考慮して緩やかに動けるよう気遣ってあげるのも嗜みです。
僕はこれができなくて、当初は妻に叱られました(笑)
これから着物女性と行動する機会が訪れた時、着物男子のみなさんは必ずこの点を忘れないでください。

妻いわく「着物はゆとりをもっていなければ着ることができないんだよ」とのこと。

この言葉は、行動速度へのゆとり以外にいろいろな意味を含んでいると思いました。
いいもの着ようと思ったら懐にもゆとりが必要ですし、時間に追われることのない気持ちのゆとりや心構えを持たないと、着物を楽しめないのは事実かもしれません。

また、前回お話したとおり、現在の建物を始め階段や道路などは着物での行動を前提として設計されていません。
したがってこういう場所では決して洋服着用時と同じように走ったりしないこと。
接触面と拘束性の高い着物や鼻緒だけで足とつながる滑りやすい雪駄で急ぐのは、走りにくいとか遅いとかいう以前に、すごく危険なのです。
着物を着ているときは原則として「走らない」と考えるべきでしょう。

そんなわけで、外出の際は、あらかじめ時間に余裕を持って出かけ、横断歩道は点滅青信号は渡るのを見逃し、駅では駆け込み乗車せずに一本あとの電車に乗りたいものです。
エスカレーターやエレベーターにも裾や袖を挟まれないよう注意してください。

そのかわり、これらを理解すると「焦って先を急いでも無駄」だという諦めが不思議な落ち着きとゆとりにつながるということを発見しました。


「どうせ急げないんだし」と堂々と着物の道をゆくことで、姿勢もゆったり、そして表情も穏やかになります。
周囲がカツカツと大股で靴を鳴らして通り過ぎて行っても自分は自分です。
せわしい人々を笑顔で見送ることができるでしょう。
「狭い日本、そんなに急いでどこへ行く」などという言葉もありますが、着物の時代の人々はもっと気持ちに余裕のある生活を送っていたのかもしれませんね。

この弱点は「時間に余裕持って行動する」ことで根本的に解決できますので、機能的問題というより心構えのお話です

繰り返しますが、着物は"ゆとり"をもって着るということを忘れずに!


【関連】
着物の弱点[1] -環境編-
着物の弱点[3] -取り扱い編-

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